2014年7月1日火曜日

キャスリーン・バトル 「クリスマスを歌う」










楽器にはない
人間の声の魅力

 昔から人間の声には素晴らしい魅力が備わっているとよく言われます。究極的にはいかなる楽器の響きも人間の歌声には、やはりかなわないとも言われています。しかも似ている声質の人はいても、まったく同じ声質の人は地上に誰もいないということを考えると、人間の声、特に歌声は神様が人間に与えてくださった最高の賜物なのかもしれません。

 声楽家にもいろいろなタイプがあって、たとえば声量で圧倒する人もいれば、豊かな感情表現で魅了する人もいます。そうかと思えば、完全無欠のテクニックで聴かせてしまう人もいますし、声の美しさで魅了する人もいますよね……。
 聴く人は自分の相性に合う様々な個性や声質の歌手たちの歌声に魅力を発見し、聴く喜びや感動を共有するのだと思います。

 1980年代の後半から1990年代にかけて活躍し、一世を風靡したソプラノ歌手のキャスリーン・バトルの存在は間違いなく私にとって心を鷲掴みにされた歌手の一人でした。日本ではウイスキーのCMで披露されたヘンデルの「オンブラ・マイフ」の歌声や雰囲気があまりにもセンセーショナルだったこともあって、覚えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか? 「オンブラ・マイフ」もそうですが、彼女が歌うレパートリーの曲って、ほとんど完全に何の違和感もなく自分の歌として聴かせてしまう驚くべき才能の持ち主だったんですね……。



バトルの声に酔う
クリスマスアルバム

 特に1989年に発表されたクリスマスアルバム、「クリスマスを歌うーきよしこの夜ー」は絶品でした。歌手にはいろいろな持ち味のタイプがあると言いましたが、おそらくキャスリーン・バトルは上記の魅力をほぼ過不足なく持ち合わせていた人と言ってもいいと思います。
 バトルの歌の魅力として、ピアニッシモの美しさがまず挙げられると思います。しかも発声に無理がないため、聴く人は自然な呼吸のリズムに合わせて音楽を味わうことができるのです。つまり、聴き手は歌手の発声上の癖や呼吸の苦しさ等に左右されないで、土に水が染みこむように音楽を堪能できるので気持ちがいいのですね! 類稀な美声と音域の広さもバトルの歌の魅力を引き立てています。

 しかし、何と言ってもバトルの素晴らしさは天性の音楽性と情感の豊かさに尽きるのではないでしょうか。それはこのクリスマスアルバムに最高に発揮されていると思います。

 オープニングの「神の御子は今宵しも」から、抜群の音楽性と歌い回しの自然さに魅了されてしまいます!
 その他、透明感に満ちた真摯な歌声が光る「エサイの根」、七色の声と感情の豊かさに惹かれる「幼な子イエス」、遠くへ連れさられるような深い感情移入と繊細な表情が素晴らしい「私は驚きながらさまよう」、とろけるような優美なピアニッシモの「マリアの子守歌」!等々、挙げればキリがありません。
 アルバムとしての完成度も高く、レナード・スラットキン指揮の聖ルカ交響楽団や合唱団のサポートも素晴らしいの一言です。一般的な寄せ集めのクリスマスソング・オムニバス集とは一線を画した、すべてにバランスがとれた名アルバム、クリスマスアルバムと言えるでしょう。