2010年4月17日土曜日

モーツァルト ピアノ協奏曲第23番K488




ザルツブルグの風景



 先日、モーツアルトの交響曲は正装したフォーマルな作品群だとお伝えしました。ピアノ協奏曲はどうかというと、交響曲ほどはかしこまらず、さりとてオペラほど開放的でもない。つまり、ほどよくカジュアルで、ほどよく気品と格調を兼ね備えた魅力的な作品群ということになるのではないでしょうか。
 今日は後期の名作ピアノ協奏曲第23番についてお話しします。この作品は、幸福感と爽やかな叙情が全体の雰囲気を作っていて、聴く人の心に様々なイマジネーションを想起させてくれます。しかもいつ聴いてもたった今、作品が生まれてきたかのような新鮮さに満ち満ちているのです。

 モーツァルト自身も心身ともに充実し、未来への希望を抱いていた時代だったのでしょう。メロディやリズムは聴く人をたちどころに幸福感で包みます。第3楽章フィナーレの流れるようなメロディや弾むリズムに彩られた夢幻のファンタジーはまさにそうでしょう。第2楽章アダージョのはらはらと流れる涙を止めることもなく、ひたすら哀しみにうちひしがれるような名旋律も1度聴いたら忘れられません。この哀しみも内に沈む孤独なものではなく、より普遍的なものへの埋め尽くせないわびしさを託したようなメロディなので決して暗くなることがないのです。
 日本画の大家、東山魁夷がこの2楽章をイメージして絵を描いたというのは有名な話ですが、確かに透明感があり、澄み切った美しいこのメロディは創作欲をかきたてる何かがあるのかもしれません。

 第1楽章は両楽章に比べれば際立った魅力と個性に乏しいようにも思われますが、それがなかなかどうして、さすがはモーツアルト!しっかりと両楽章への橋渡しをする大切な役目を担わせているのです。
 この楽章では澄み切った青空やのどかな雲の流れ、色とりどりに咲く花々を思わせる風光明美でパステルカラー調のイメージが描かれていきます。
そして、時に音楽のピークの部分ではそれがキラキラと輝き、虹色にさえ変幻し胸を膨らませていくのです。

 魅力作だけあって、演奏は実に沢山あります。けれども、この清新な曲調のイメージを壊さず、本質を掴んだ指揮するのは本当に難しいようです。
 そのような中でハイドシェックのピアノ、ヴァンデルノートが指揮したCDはモーツアルトの愉悦や夢幻のファンタジーを最高に再現しています。この演奏は即興的な面白さにも優れ、モーツァルトが描きたかったのはこんな情景なんだろうなと思わせるのです。特に第3楽章の早めのテンポの中に繰り広げられる夢幻のファンタジーは絶品です。