2017年9月24日日曜日

フラゴナール 読書する娘











抜群の構図と
目の覚めるような
美しい色彩

「印象に残る人物画は何ですか?」と尋ねられたら、この絵を思い出されるかたは少なくないでしょう。

知らない人はいないのでは?……と思えるほど、『読書する娘』は絵柄としても有名ですし、説明は不要なくらいにありとあらゆる媒体や印刷物に使われていることは皆さん承知の事実です。もはや本を読む人の永遠のイメージ像として定着してしまったような感じさえありますね。

時に絵の善し悪しは構図と配色で決まってしまうともいわれますが、この絵は構図が抜群です!しかも配色が目も覚めるほどに美しい!

特に全体を大きく三角形で結ぶ構図が読書にふける女性の静謐で穏やかな雰囲気を決定づけています。それだけではなく、頭から腰にかけて連なるいくつかの三角形の構図が女性らしさや気品を印象づける重要な働きをしているのです。

女性を上手に描く人は世の中にたくさんいるかもしれません。けれどもフラゴナールのように女性の魅力を存分に引き出して、甘美な夢を見させてくれる人は少ないことでしょう……。

横向きにもかかわらず、フラゴナールの女性像はまるで目の前に座っているかのように情感豊かで生き生きとしたメッセージを伝えるのです。

本当に伝えたいメッセージを表現する上で、ロココ時代の絵によく見られる過度な装飾や演出は逆効果になることをフラゴナール自身もよく理解していたのでしょう。

細部のこだわりを捨てたダイナミックで素早いタッチの描写がデリケートでセンス満点な彩色とあいまって、最高に魅力的な女性像を作り上げているのです。


2017年9月15日金曜日

グリーンアクアリウム展














大自然の森のようなアート

幼い頃、箱庭を見たり、作ったりするのが大好きでした! あの箱庭で展開される小さな宇宙はいったい何だったのでしょう……。今思い出しても、とても不思議で可愛らしかったですね。

さて、発想はかなり近い感覚なのでしょうけれども、現在、神奈川・武蔵小杉駅近のグランツリー武蔵小杉で「グリーンアクアリウム展」なるものが開催されています。これは何かというと、熱帯魚や淡水魚、水草、サンゴ、岩などを使って、水槽の中に美しい世界を作り出すことだそうです……。

今回のイベントの主役、アクアリスト(アクアリウムを制作する人たち)と呼ばれる人たちは現在、欧米を中心に世界中で活動しており、”アート作品”と呼ぶにふさわしい、幻想的な水中世界を創造しているのだそうです。

イベントでは世界有数のAQUARIST6名が監修した作品が展示されています。まるで水槽内に出現した大自然の森のような……、アート作品として表現された今までにないイベントですね。
写真を見る限り、とても美しいし、愉しそうですね!童心に帰ったつもりで見てみようかな……。もしかしたら、疲れた心が癒やされたり、何らかの気づきがあるかもしれません!



【開催概要】
グリーンアクアリウム展
開催期間:2017年9月13日(水)~2017年10月9日(月・祝)
営業時間:10:00~21:00 (最終入場 20:30)
観覧料:一般(中学生以上) 500円/小学生 300円/幼児(小学生未満) 無料
チケット販売:
・8月21日(月)~ セブンチケットにて販売
・9月13日(水)~ グランツリー武蔵小杉内チケットカウンターにて販売


■ワークショップ
開催日:2017年9月17日(日)、9月18日(月・祝)、9月24日(日)、10月1日(日)、10月8日(日)、10月9日(月・祝)の6日間
時間:10:00~/11:00~/13:00~/14:30~/16:00~/17:30~(所要時間 約1時間)
定員:各回12名 ※混雑時には予約制
参加料:3,000~5,000円+税 ※グラス水槽・材料込み
支払い方法:参加時にワークショップ会場にて現金での支払い

2017年9月12日火曜日

ヴィヴァルディ グローリア ニ長調 RV.589










穏やかな癒やしを与えてくれる
「グローリア」

イタリアバロックの大作曲家ヴィヴァルディといえば膨大な数の作品を残したことで有名ですが、ヴィヴァルディといえば「四季」、「四季」といえばヴィヴァルディというくらいクラシック音楽の人気曲として今や知らない人はいないほどです。しかし、それ以外の作品は一般的にあまり知られていませんし、認知度がぐっと下がってしまいます。
実際は魅力的な作品がたくさんあるのに、埋もれてしまう傾向があるのはちょっと残念なことですね……。

そこで、ヴィヴァルディのおすすめ作品を一つあげてみることにしましょう! 
私がおすすめしたいのは宗教音楽「グローリア」です。 決して大作ではありませんが、何度聴いても飽きない素直な語り口が、穏やかな癒やしや心地よいひとときを与えてくれることでしょう。

「グローリア」の良さは、何と言っても親しみやすさではないでしょうか!

つまり宗教音楽にしばしば見られる堅苦しい約束事や、重々しい情念に束縛されることがありませんし、どこまでも明朗快活なのです。音楽はあくまでも楷書風できっちりとしていますし、誰が聴いたとしても見通しの良い作風に魅了されることでしょう。

第3曲のソプラノの二重唱も涼風のような爽やかな余韻を残してくれるし、第7曲の合唱曲「ひとり子である主」(Domine, Fili unigenite)の弾むような喜ばしい情感も聴いていてうれしくなってきます。

最後の合唱曲、聖霊とともに(Cum Sancto Spiritu)は天上から穏やかな陽射しがゆっくりと差し込むような神秘的な情緒を醸し出しつつ曲を閉じていきます。


絶品の演奏
プレストン盤

演奏はサイモン・プレストン指揮エンシェント室内管弦楽団、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊、エマ・カークビー(S)、ジュディス・ネルソン(S)、キャロライン・ワトキンソン(MS)他(Decca)が最高です。まさにこの作品を演奏するために生まれた音楽集団と言えば言いすぎかもしれませんが……、それくらい魅力いっぱいの名演奏です!

この作品を荘厳に盛り上げようとしようとしたり、華々しいフィナーレにしようとしたりすると大抵は失敗してしまいます。そもそも音楽自体がそのような激しい演奏を要求していないのですね。 むしろ引き締まったリズムや造形スタイル、柔らかで透明感のある歌声こそがこの音楽に相応しいのだと思います。

その中でもプレストン盤は絶品で、どこをとっても過不足のない、この音楽の理想とする美しい演奏のひとつなのではないでしょうか。

ソロの透明な歌声や、柔軟性のある管弦楽の音色やリズム、そして無垢で温かい合唱の魅力が他の演奏を大きく引き離しています。中でも大好きな第7曲の合唱、 ひとり子である主(Domine, Fili unigenite)の胸の弾むような喜びと優しさは例えようがなく、この作品の魅力を引き立たせています!

2017年9月9日土曜日

モーツァルト 「エクスルターテ・ユビラーテ」




















無垢な喜びが躍動する
リリック・ソプラノのための傑作

エクスルターテ・ユビラーテは17歳の青年モーツァルトが作曲した無垢な喜びが躍動する、愛らしいリリック・ソプラノのための管弦楽作品です!

日本語タイトルとしては、「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ!」で親しまれていますが、まさに喜びが弾けて、気持ちが晴れやかになる作品と言っていいでしょう。

曲は三部形式になっていて、モーツァルトらしい素直な感情の吐露が秀逸です。

私が注目したいのは、ともすれば地味な印象を受けやすい第二楽章アンダンテです。無類の優しさや憂いの心を漂わせていて深く心に刻まれます。17歳でこんなに深い音楽を作ってしまうなんて……。
改めてモーツァルトの凄さを感じてしまいます。

最後の有名な「アレルヤ」ですが、アレルヤ!と連呼するたびに無限に変化する愛らしい表情や天国的な美しさ、そして湧き上がる無限の喜びの想い…。これはモーツァルトでしか作れない天性の音楽かもしれません。ソプラノ歌手たちがこぞって歌いたくなるのも分かるような気がします!



天衣無縫な愉しさを
表現する難しさ

この曲はオペラのように表情をつけると、天衣無縫な愉しさから遠ざかってしまうし、力を入れすぎたり、テクニックに比重が置かれると曲の本質からかけ離れてしまうという……、文字通り簡単なようでなかなか厄介な作品です。


バトルの表情はとてもすっきりしているのですが、その透明感のある歌声の中に多彩な音色の変化があり、心の動きが巧みに表現されています。 特に「アレルヤ」はまったく力んでいないのに、どこまでも伸びやかで澄み切った声と鋭敏な感性! これはモーツァルトの神髄を突いた唯一無二の表現と言っていいかもしれません。


特にボニーの伸びやかでヴィブラートを極力抑えた素直な歌声はモーツァルトにピッタリです。可憐で優しさに満ちた表情が至福の時を約束してくれることでしょう。 特に第2楽章はその優しさが音楽と一体となり、深い情感を醸し出す名唱となりました。










2017年8月30日水曜日

注目のメサイア演奏








最もオーソドックスで
最も音楽的なメサイア

今回も前回のホグウッド盤に引き続き、ヘンデル=メサイアの名演についてお話したいと思います。

まず注目したいのが、ダイクストラ&バイエルン放送合唱団、B'ROCK他のCDです。演奏、合唱、ソリストの歌声等、どれをとっても高い次元でまとめられ、しかも演奏が喜びに溢れていることが伝わってきます。

自然と胸が高鳴っていく感覚というのはこのような演奏を指して言うのでしょう。やはりヘンデルの音楽には愉しさや生き生きとした感動、作品への深い共感が必要不可欠なことがよく分かります。
ソリストも「この人が凄い!」という飛び抜けた存在こそいませんか、皆、音楽性が優れているし、メサイアをよく知っていますね。

また、合唱はオリジナル楽器演奏によくあるソプラノを前面に据えて透明感を押し出した演奏とは違い、ソプラノ、アルト、テノール、バス、各声部がそれぞれの強さと主張を持っていて、豊かさや立体感を兼ね備えたハーモニーになっているのです!

ダイクストラのオリジナリティ溢れる指揮や豊かな音楽性にも正直驚きました。もしかしたら、今後ヘンデルのオラトリオでわくわくする演奏を届けてくれるのはこの人かもしれません……。








ミンコフスキ
面目躍如のメサイア

もう一枚はミンコフスキのメサイア(アルヒーフ)です。発売当時、メサイアらしくない演奏だ!?とか、過激だとか……、あまりよろしくない評価を受けてきました。
でも本当にそうなのでしょうか?

改めて聴いてみるとこの演奏に込めたミンコフスキの並々ならぬ思いが伝わってきます。それはメサイアの音符から生きたドラマや精神性を描き出そうという強い信念なのです。それならメサイアの本質や透明感のある響きから遠ざかってしまうのでは……、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、決してそうではありません。

全体的にこのメサイアの合唱は強いダイナミズムに貫かれていて、一気呵成に進められていくし、求心力があります。けれども威圧的にはなってないし、とことん突き詰めた深い表現が、さすがミンコフスキと思わせます。

たとえば、第二部の「見よ、世の罪を取り除く神の子羊」の 合唱は他の演奏からは聴くことができない苦悩や孤独がひたひたと伝わってきます。
また、ドーソンやエインズリー、アサワらの歌はいずれも心の歌を強く印象づけますし、存在感充分です。

ただ納得できないのは「ほふられた子羊たちは~アーメンコーラス」で結ばれる最後の大規模な合唱の部分です……。深い内容を引き出そうとしたのかもしれませんが、これだけはちょっといただけません。とにかく最後の最後まで苦悩を引きずっているような感じがしてくどいのです……。

「終わりよければすべて良し」とはよく言いますが、よりによって最後の感動的で大事なコーラスだけに、これは少々後味が悪いし残念ですね。

2017年8月25日金曜日

ホグウッドのメサイアを聴く












ホグウッドの
メサイアを堪能!

ホグウッドのメサイアを久しぶりに聴いてみました。
これはもともとデジタル録音(1980年)として発売されたCDを2014年に改めてデジタルリマスターし直したものなのですが…、やっぱりいいものはいいです……!
言うまでもなく、古楽器を使用したメサイアというだけではなく、初めてこの作品の魅力を世に問いただしたセンセーショナルな名演といっていいでしょう。

今振り返ると、当時音楽界が騒然としたことに違和感を感じたりもするのですが、それはこの演奏が生まれた時代背景が大きく反映していることは間違いありません。

それまでのメサイアの演奏といえばハレルヤコーラスに代表されるような高揚感を出すために、これ見よがしに大音量で圧倒したり、威圧的な表現を選ぶ演奏が大多数を占めていたのでした。

しかしこのホグウッド盤を聴くと、そのような威圧的なところは微塵もなく、作品の隠された美しさを忠実に描き出そうという極めて良心的で真摯な姿勢に貫かれているのです。

それはまったく力みのないソリストたちの歌唱や合唱を聴けば明白ですし、全体的に音楽の原点に立ち返ったような懐かしさと爽やかな情感に満たされていたのでした。
今までの手垢にまみれていたメサイアの虚像が洗い流されて、私たちの心に寄りそうような「メサイア」がやっと登場したことに胸が熱くなったものです。

あのセンセーショナルな名演の誕生から40年弱、ホグウッドやソプラノのジュディス・ネルソンはすでに世を去り、時の流れの早さに驚くばかりですが、音楽的な価値は今もまったく変わりありません。このたびのデジタルリマスターで音質に拡がりや豊かさが出てきたのは本当にうれしい限りです!







2017年8月22日火曜日

久々に聴いたヘンデルの「ユダス・マカベウス」









ヌリア・リアルの
「イスラエル女性」

先日、久々にヘンデルのオラトリオCDを聴いてみましたので、ちょっとだけ感想をお伝えしたいと思います。ハルモニアムンディから発売されたロルフ・ベック指揮、エルビポリス・バロックオーケストラ・ハンブルク他の「ユダス・マカベウス」がそれです。
このオラトリオは名曲なのですが、サウルやソロモンあたりに比べると明らかに録音が少なく残念に思っていただけに、ヘンデルをこよなく愛する私としては少々嬉しくなったのでした……。

このCDの売りの一つは何と言ってもバロックオペラやヘンデル、ハイドンのアリアCDで現在注目を集めているソプラノのヌリア・リアルでしょう。美しく透き通る声だけではなく、陰影に満ちた表情や気品溢れる表現が女性ならではの発声の美しさとあいまって至福の時を約束してくれるのです。

したがって、期待に胸が高まりながら聴いたのは勿論のことなのですが、ロルフ・ベック指揮する序曲のふんわり(?)した軽い出だしから「あれっ!」と肩透かしを食ってしまいます。

これは古楽器が市民権を得た1980年代の演奏スタイルそのものではないか……、そう思ったのでした。しかし、それ以降はオケが、特にトランペットやティンパニが往年のしっかり、がっちり型の演奏形式に豹変し、ますます戸惑ってしまうのです!? でも演奏そのものは深さがあり、ドラマがあって、なかなか聴き応えがありました。

特にシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団のコーラスは優秀で、全体的にゆっくりめのテンポから美しいハーモニーを繰り広げていきます。



やはり難しい
ヘンデルのオラトリオ演奏

そして注目のイスラエルの女性役で出ているヌリア・リアルですが、これが本当に美しい!繊細でウエット感のある優しげな声で歌われると堪りません……!
過去これだけ美しく、魅惑に満ちた歌を披露してくれた「イスラエル女性」があったでしょうか……。非の打ち所がないというのはこのことを言うのでしょう。

カークビー、アージェンタあたりと比べてもまったく遜色ないのですが、もし難点をあげるとしたらイスラエル女性役としては綺麗すぎることと、やや線が細いかな…ということ位でしょうね。もちろんそれは贅沢な望みなのでしょうが。

ただしこのCDには問題があります。曲をずっと聴き進めていくのですが、どうも退屈なのです…。しかも全体的に重苦しいし、愉しくありません…。おそらくベックの指揮する演奏スタイルが伸び伸びと音を開放していくスタイルではなく、意外に細かな表情をつけて締めつけてしまうスタイルが影響しているのではないかと思うのです。

この演奏を聴いて思い出したのがレオナルド・ガルシア・アラルコン指揮ナミュール室内合唱団およびレザグレマンのCDです。あの時聴いた「ユダスマカベウス」のストレートで求心力のある響き!新鮮で味わい深い表現!まったく感動に満ちた至福の時でした。しかし、このCDには何故かそれがありません…。

男性のソリストたちの声も指揮者の要求なのか、発声の癖なのかわかりませんが、どうも力んで歌っているように思えて仕方ありません。そのことがこのオラトリオ全体の求心力、格調を下げてしまうのではないかと感じるのです。

改めてヘンデルの作品は簡単ではない……。演奏するには作品への愛情が必要だけれども、それ以上に高いレベルで本質をしっかりとつかんでいなければならないと痛感させられたのでした。

最後に少し口直しと言うことで、ヌリア・リアルのお勧めCDを挙げておきます。