2017年10月17日火曜日

「生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展」














形や模様に対する飽くなき追究と
調和とバランスを見出す面白さ

エッシャーの展覧会が来年6月の東京・上野を皮切りに各地で開催予定です。

エッシャーと言えば「だまし絵」で有名ですが、もちろん漠然とトリック手法的な絵を描いた訳ではありません。
そこには形や模様に対する飽くなき追究がありますし、調和とバランスを見出す面白さや発見があるのです。

スペインのアルハンブラ宮殿で見たモザイク模様の数々に心奪われて、何度も訪れるうちに、彼はモザイク模様の探求を生涯をかけたテーマとして認識するようになります。代表作の『滝』や『相対性』はエッシャーのモザイクや幾何学形態的な考え方が行き着いた一つの結論と見ていいかもしれません。

2018年で生誕120周年となり、日本国内ではそれを記念して大規模な回顧展が開催されることとなりました。今回はイスラエル博物館のコレクションから代表作や、初期に関わった作品、直筆のドローイング等、貴重な資料も含めて、150作品が公開される予定です。乞うご期待!




生誕120年 イスラエル博物館所蔵 
ミラクル エッシャー展

期間:2018年6月6日(水)~7月29日(日)
会場:上野の森美術館
住所:東京都台東区上野公園1-2

※大阪・福岡ほか巡回予定

2017年10月7日土曜日

ハイドン ミサ曲 第2番 変ホ長調「祝福された聖母マリアのミサ」:大オルガンミサ












ミサ曲というカテゴリーで
創造の翼を羽ばたかせるハイドン

以前お話したことがありますが、ハイドンのミサ曲はミサの要素だけにとらわれない、宗教音楽という枠や概念を超えているところが魅力としてあげられると思います。つまりミサ曲というカテゴリーの中で、思う存分創造の翼を羽ばたかせているといってもいいでしょう。

この通俗名「大オルガンミサ」も、いかにもミサを彷彿とさせる形式と清廉なメロディラインを持っているのですが、一般的なミサ曲と比べると音楽的な拡がりや聴き応えが大いに違います。

「大オルガンミサ」はカトリックの典礼に準じた正統的なミサ曲なのですが、音楽的、芸術的な指向性は決してそこに留っていません。あくまでも未来に向かって音楽は動き、進んでいるのです。

まず、キリエの優しく微笑みかけるような柔和な旋律に思わず心惹かれます! 特に主題に劇的な変化や転調があるわけではないのですが、音楽は一瞬たりとも単調になることなく、拡がり発展していきます。そして何と豊かな情感が息づいていることでしょうか……。

グローリア、クレド、サンクトゥス、ベネディクトゥスのいずれも穏やかで安らぎに溢れたメロディはハイドンの抜群の構成と相まって心を和ませてくれます。そして時折ハイドン得意のフーガを絡ませて大いに作品を盛り上げていくのです。

そしてアニュス・デイです! ここは「大オルガンミサ」で最も魅力に溢れた音楽といえるでしょう。冒頭の部分は陰影に満ちていて、喜びや哀しみ、慰め…がゆるやかに噛みしめるように回想されます。とても印象的な部分ですね……。これに続く主題のコントラストも見事です。まるで涙を拭って、新たな希望の道筋へ向かっていくようではないですか…。

以上のように、この作品は典礼重視の作曲スタイルとはいえ、何度聴いても飽きることがないでしょう。ただただ、ハイドンの芸術的な処理のうまさに感嘆するしか言葉がないのです。


豊かで透明感に溢れた
プレストン盤 

この作品もサイモン・プレストン指揮エンシェント室内管弦楽団、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊(DECCA)をあげたいと思います。先日、紹介したヴィヴァルディのグローリアよりも作品に密度があり、充実感があるためさらに魅力的な演奏に仕上がっています。

ソプラノのジュディス・ネルソン、テノールのマーティン・ヒル、コントラルトのキャロライン・ワトキンソン、バスのデヴィッド・トーマスはプレストンのタクトの下、実にスッキリと溶け合った響きを醸し出してくれます。二重唱、三重唱の歌がごく自然な声の響きとして何の違和感もなく引き出されていることは一つの驚きです。

また、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊のまろやかで優しい声の響き! この作品を天上的な響きに磨き上げてくれた最大の功労者と言ってもいいでしょう。心の動きが伝わってくるような繊細な情感や温かみのある音色も実に見事です!

2017年9月28日木曜日

『シネマ・アンシャンテ』ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン デジタル・リマスター版特集上映!








歓びも哀しみも、すべてが夢のように美しい 
フレンチシネマ史上至高の映像と
音楽のコラボレーション4作品を一挙上映

ついにリバイバル上映が決定しました!

恵比寿ガーデンシネマを皮切りに上映される『ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン デジタル・リマスター版特集上映!』がそれです。これは『ロシュフォールの恋人たち』が公開50周年にあたることと、作曲のミシェル・ルグランが生誕85周年になるのを記念してデジタル・リマスター版で装いも新たに公開されるそうですね。今回は東京、横浜、名古屋、大阪、京都と全国5か所で公開されます。

ジャック・ドゥミとミシェル・ルグランといえば、映像と音楽のコラボが最高に美しく、夢のようなひとときを約束してくれる名コンビでした。今回のシリーズでは絶頂期の作品をはじめ、魅惑の作品が組まれています。

まずはシリーズの顔になっている1965年の『ロシュフォールの恋人たち』。サントラ盤に収められたほとんどすべてのナンバーがスタンダードナンバーといってもいいほどに愉しく充実した名曲揃い! しかもカトリーヌ・ドヌーブとフランソワーズ・ドルレアックの実の姉妹やジーン・ケリー、ジョージ・チャキリス等の多彩な顔ぶれが歌って踊る楽しいミュージカルになっています。

その他、息をのむほどに美しい映像と音楽との豊かな共鳴が忘れがたい余韻を残す『シェルブールの雨傘』。幻想の世界を彷徨うような大人のファンタジー『ロバと王女』、池田理代子の大ヒット漫画を実写化し、公開当時は酷評されたものの、今やその良さが再認識されつつある『ベルサイユのばら』(今回初デジタル・リマスター化)もラインナップされています。

秋の夜長、じっくりとフランスシネマの傑作に浸る至福を味わいたいものです。



2017年9月24日日曜日

フラゴナール 読書する娘











抜群の構図と
目の覚めるような
美しい色彩

「印象に残る人物画は何ですか?」と尋ねられたら、この絵を思い出されるかたは少なくないでしょう。

知らない人はいないのでは?……と思えるほど、『読書する娘』は絵柄としても有名ですし、説明は不要なくらいにありとあらゆる媒体や印刷物に使われていることは皆さん承知の事実です。もはや本を読む人の永遠のイメージ像として定着してしまったような感じさえありますね。

時に絵の善し悪しは構図と配色で決まってしまうともいわれますが、この絵は構図が抜群です!しかも配色が目も覚めるほどに美しい!

特に全体を大きく三角形で結ぶ構図が読書にふける女性の静謐で穏やかな雰囲気を決定づけています。それだけではなく、頭から腰にかけて連なるいくつかの三角形の構図が女性らしさや気品を印象づける重要な働きをしているのです。

女性を上手に描く人は世の中にたくさんいるかもしれません。けれどもフラゴナールのように女性の魅力を存分に引き出して、甘美な夢を見させてくれる人は少ないことでしょう……。

横向きにもかかわらず、フラゴナールの女性像はまるで目の前に座っているかのように情感豊かで生き生きとしたメッセージを伝えるのです。

本当に伝えたいメッセージを表現する上で、ロココ時代の絵によく見られる過度な装飾や演出は逆効果になることをフラゴナール自身もよく理解していたのでしょう。

細部のこだわりを捨てたダイナミックで素早いタッチの描写がデリケートでセンス満点な彩色とあいまって、最高に魅力的な女性像を作り上げているのです。


2017年9月15日金曜日

グリーンアクアリウム展














大自然の森のようなアート

幼い頃、箱庭を見たり、作ったりするのが大好きでした! あの箱庭で展開される小さな宇宙はいったい何だったのでしょう……。今思い出しても、とても不思議で可愛らしかったですね。

さて、発想はかなり近い感覚なのでしょうけれども、現在、神奈川・武蔵小杉駅近のグランツリー武蔵小杉で「グリーンアクアリウム展」なるものが開催されています。これは何かというと、熱帯魚や淡水魚、水草、サンゴ、岩などを使って、水槽の中に美しい世界を作り出すことだそうです……。

今回のイベントの主役、アクアリスト(アクアリウムを制作する人たち)と呼ばれる人たちは現在、欧米を中心に世界中で活動しており、”アート作品”と呼ぶにふさわしい、幻想的な水中世界を創造しているのだそうです。

イベントでは世界有数のAQUARIST6名が監修した作品が展示されています。まるで水槽内に出現した大自然の森のような……、アート作品として表現された今までにないイベントですね。
写真を見る限り、とても美しいし、愉しそうですね!童心に帰ったつもりで見てみようかな……。もしかしたら、疲れた心が癒やされたり、何らかの気づきがあるかもしれません!



【開催概要】
グリーンアクアリウム展
開催期間:2017年9月13日(水)~2017年10月9日(月・祝)
営業時間:10:00~21:00 (最終入場 20:30)
観覧料:一般(中学生以上) 500円/小学生 300円/幼児(小学生未満) 無料
チケット販売:
・8月21日(月)~ セブンチケットにて販売
・9月13日(水)~ グランツリー武蔵小杉内チケットカウンターにて販売


■ワークショップ
開催日:2017年9月17日(日)、9月18日(月・祝)、9月24日(日)、10月1日(日)、10月8日(日)、10月9日(月・祝)の6日間
時間:10:00~/11:00~/13:00~/14:30~/16:00~/17:30~(所要時間 約1時間)
定員:各回12名 ※混雑時には予約制
参加料:3,000~5,000円+税 ※グラス水槽・材料込み
支払い方法:参加時にワークショップ会場にて現金での支払い

2017年9月12日火曜日

ヴィヴァルディ グローリア ニ長調 RV.589










穏やかな癒やしを与えてくれる
「グローリア」

イタリアバロックの大作曲家ヴィヴァルディといえば膨大な数の作品を残したことで有名ですが、ヴィヴァルディといえば「四季」、「四季」といえばヴィヴァルディというくらいクラシック音楽の人気曲として今や知らない人はいないほどです。しかし、それ以外の作品は一般的にあまり知られていませんし、認知度がぐっと下がってしまいます。
実際は魅力的な作品がたくさんあるのに、埋もれてしまう傾向があるのはちょっと残念なことですね……。

そこで、ヴィヴァルディのおすすめ作品を一つあげてみることにしましょう! 
私がおすすめしたいのは宗教音楽「グローリア」です。 決して大作ではありませんが、何度聴いても飽きない素直な語り口が、穏やかな癒やしや心地よいひとときを与えてくれることでしょう。

「グローリア」の良さは、何と言っても親しみやすさではないでしょうか!

つまり宗教音楽にしばしば見られる堅苦しい約束事や、重々しい情念に束縛されることがありませんし、どこまでも明朗快活なのです。音楽はあくまでも楷書風できっちりとしていますし、誰が聴いたとしても見通しの良い作風に魅了されることでしょう。

第3曲のソプラノの二重唱も涼風のような爽やかな余韻を残してくれるし、第7曲の合唱曲「ひとり子である主」(Domine, Fili unigenite)の弾むような喜ばしい情感も聴いていてうれしくなってきます。

最後の合唱曲、聖霊とともに(Cum Sancto Spiritu)は天上から穏やかな陽射しがゆっくりと差し込むような神秘的な情緒を醸し出しつつ曲を閉じていきます。


絶品の演奏
プレストン盤

演奏はサイモン・プレストン指揮エンシェント室内管弦楽団、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊、エマ・カークビー(S)、ジュディス・ネルソン(S)、キャロライン・ワトキンソン(MS)他(Decca)が最高です。まさにこの作品を演奏するために生まれた音楽集団と言えば言いすぎかもしれませんが……、それくらい魅力いっぱいの名演奏です!

この作品を荘厳に盛り上げようとしようとしたり、華々しいフィナーレにしようとしたりすると大抵は失敗してしまいます。そもそも音楽自体がそのような激しい演奏を要求していないのですね。 むしろ引き締まったリズムや造形スタイル、柔らかで透明感のある歌声こそがこの音楽に相応しいのだと思います。

その中でもプレストン盤は絶品で、どこをとっても過不足のない、この音楽の理想とする美しい演奏のひとつなのではないでしょうか。

ソロの透明な歌声や、柔軟性のある管弦楽の音色やリズム、そして無垢で温かい合唱の魅力が他の演奏を大きく引き離しています。中でも大好きな第7曲の合唱、 ひとり子である主(Domine, Fili unigenite)の胸の弾むような喜びと優しさは例えようがなく、この作品の魅力を引き立たせています!

2017年9月9日土曜日

モーツァルト 「エクスルターテ・ユビラーテ」




















無垢な喜びが躍動する
リリック・ソプラノのための傑作

エクスルターテ・ユビラーテは17歳の青年モーツァルトが作曲した無垢な喜びが躍動する、愛らしいリリック・ソプラノのための管弦楽作品です!

日本語タイトルとしては、「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ!」で親しまれていますが、まさに喜びが弾けて、気持ちが晴れやかになる作品と言っていいでしょう。

曲は三部形式になっていて、モーツァルトらしい素直な感情の吐露が秀逸です。

私が注目したいのは、ともすれば地味な印象を受けやすい第二楽章アンダンテです。無類の優しさや憂いの心を漂わせていて深く心に刻まれます。17歳でこんなに深い音楽を作ってしまうなんて……。
改めてモーツァルトの凄さを感じてしまいます。

最後の有名な「アレルヤ」ですが、アレルヤ!と連呼するたびに無限に変化する愛らしい表情や天国的な美しさ、そして湧き上がる無限の喜びの想い…。これはモーツァルトでしか作れない天性の音楽かもしれません。ソプラノ歌手たちがこぞって歌いたくなるのも分かるような気がします!



天衣無縫な愉しさを
表現する難しさ

この曲はオペラのように表情をつけると、天衣無縫な愉しさから遠ざかってしまうし、力を入れすぎたり、テクニックに比重が置かれると曲の本質からかけ離れてしまうという……、文字通り簡単なようでなかなか厄介な作品です。


バトルの表情はとてもすっきりしているのですが、その透明感のある歌声の中に多彩な音色の変化があり、心の動きが巧みに表現されています。 特に「アレルヤ」はまったく力んでいないのに、どこまでも伸びやかで澄み切った声と鋭敏な感性! これはモーツァルトの神髄を突いた唯一無二の表現と言っていいかもしれません。


特にボニーの伸びやかでヴィブラートを極力抑えた素直な歌声はモーツァルトにピッタリです。可憐で優しさに満ちた表情が至福の時を約束してくれることでしょう。 特に第2楽章はその優しさが音楽と一体となり、深い情感を醸し出す名唱となりました。